納得のシャツを作る方法

前回、シャツ作りでお客様ニーズを引き出すために、いかに知識や情報を蓄積し、うまく活用していくかをお話しました。

 

シャツオーダーの際に、お客様とやり取りするうえでのポイントは「相手の意思を聞き、尊重する」ことにあります。ただ、お客様が必ずしも(ほとんどの場合)シャツに詳しいというわけではありませんので、まずは最初のヒアリングで、抽象的でもご要望を全て引き出せるようにすることが大事です。

 

それを踏まえて専門家として、抽象的なお客様のイメージをより具体化し、よりイメージに近いものへと導くのも大切な仕事になります。ただお客様のこだわりや好みなどをうまく感じ取り、友人のように親身になってコミュニケーションをとらなければ、ただの押しつけになってしまいますので、また難しいところ。

そうやってお客様ご自身が、自分の意志で注文したものを専門家に作ってもらうと自覚していただければ、より満足度も高まります。つまり、私たちプロの「助言=お墨付き」があることで、その自覚を自信に変えることができるのです。

 

米国発の自己啓発に、「サイコサイバネティクス」という言葉があります。そこで形成外科医のモルツ博士が、人間の心と体のバランスについて説いています。例えば事故である美しい女性が顔に傷を負い、手術で完璧に直しても「治っていない」と言ったそうです。傷は治ったと説明しても、「顔に傷のある時からの嫌な気持ちが変わっていない」と。聞けば事故の傷のせいで結婚が破談になったそうで、過去のトラウマも治さなければ、外見をいくらきれいにしても解決にはならないということがここでわかります。

 

シャツ作りにおいても、同じことが言えます。

いくら高級素材で外見のいいものを仕上げても、お客様ご自身の納得がなければ、それはいいシャツにはなり得ません。一方で前述したとおり、ご自身の意見と専門家のホンの少しのお墨付けがあれば、それこそが本当の自信の1枚になるのです。