vol.5 | 生地の価値の指標となる糸の撚り方

さて、シャツの生地の主役は綿であること、そして綿の産地などについて触れてきましたが、今回は生地を構成する、綿糸の紡績法について書いてみたいと思います。

原綿から採れた、繊維である綿糸は細すぎてそのままでは使えません。
それを繊維を束にして、1本の糸にして使用します。
そのときにただ数本合わせるだけでは、バラバラになってしまい使い物になりません。
そこで、繊維を合わせて、ひねることによって、丈夫な1本の糸になります。
これを「撚り(より)」といいます。
よく、日常生活などでも「腕に撚りを掛けて」という言葉がありますが、この糸の撚りが言葉の由来です。

この撚りが非常に強い糸は、強撚糸(きょうねんし)と呼ばれ、シアサッカーや縮緬(ちりめん)と言われる、表面がちぢれた生地になります。
撚りが弱いと、生地になったときには柔らかい出来上がりの生地になります。
また、右回りに撚った(S撚り)か、左周りに撚った(Z撚り)かで、摩擦係数や、光沢などにも違いが出るそうです。
(これ以上は、製糸や紡績の範疇ですので、川上過ぎなので割愛します。)

シャツとしての価値を判断する上での、生地の糸の撚りについては、ここまで詳しい必要は一切ありませんが、ただ、一つだけ知っておいてほしい極めて大事なポイントがあります。

それは、「糸を何本で撚るか?」ということです。

シャツの生地としては、大きく分けて、糸の撚り方として3種類あります。
一つは単糸(たんし)、一つは双糸(そうし)、最後の一つは三子糸(みこいと)の3種類です。
シャツが好きな方でしたら、聞いたことがあると思います。

  1. 単糸
    記号では「/1」や「/-」などと書かれます。普通に撚った糸1本で、生地に織り上げていく方法です。柔らかい生地や、ふわっとした風合いを出したいときに、使われる方法です。耐久性は高くはないので、柔らかい風合いを出したいとき以外では使われません。コストも安く済むので、安価な製品には多く使われる方法です。生地が傷むのが早いので、基本的にはお奨めは出来ません。
  2. 双糸
    記号では「/2」と書かれます。普通に撚った糸を、2本使って、さらに1本の糸に生成します。丈夫で、引っ張りなどにも強い織り方です。高級シャツの90%が双糸を使っています。ただ、出来上がりが少し薄く、平面的になりやすいですので、風合いを出したいときには好まれません。ちなみに単糸とは倍の番手で同じ太さになります。50/1と100/2は同じ太さと言うことになります。
  3. 三子糸
    記号では「/3」と書かれます。双糸が2本なのに対し、三子糸は、3本を撚って、1本にします。三子糸は極めて珍しくシャツ全体の0.01%にも満たない量です。服の専門家でも知らない人、知っていても見たことの無い人もいるレベルです。
    3本撚りますので、少し詰まった感じと、若干の厚み、必要以上にしっかりとした印象があります。独特の風合いで、三子糸だと知らずに、「この生地感が好きなんだけど、探しても見つからない」とお問い合わせを稀に頂戴することがあります。
    個人的にはとても好きですが、コストが掛かるため流通量は少なく、覚えて無くて良いレベルの生地です。

結論を申しますと、大事なのは(特別な場合を除き)単糸ではなく、双糸であることです。双糸の方がはるかに長持ちします。